私達の行く先は天ではなかった。
第陸話 コメート・ファウストの場合④
あの妖精も、他の能力持ちも監視しているようだし、あまり期待はしていない。呪いの予備ツールと言ったところか。それくらい、あの妖精のことは期待していない。兎にも角にも、ミーティアの死を食い止められた私は褒め称えられるべきだわ。……どっかのレモン妖精とかにでも。
十六年ぶりにレモンの妖精と話してみようかしら。自慢には丁度いいのよね、あの子。
「レモンの、聞いてたら私と話さない?」
しかし、来たのは『レモンの』ではなくて、またも『イチゴの』だった。
「貴女は呼んでいないのだけど……レモンのはどうしたのかしら」
「あんたね、せっかく教えてあげに来たんだから感謝の一言くらいないの?」
ぴーぴー喚くイチゴのは、何か言いたそうにこちらをじっと見つめている。
「はいはいありがとう。それで、レモンのはと聞いているのだけど」
「誠意がないわね。レンならあんたのお得意様の家に居候するようになったようよ。本村愛華って言ったかしら。金持ちのボンボンのお世話になるなんてあいつも文字通り"堕ちた"わよね」
堕ちた……ふぅん、レモンのは人間堕ちしたのね。
私は人間堕ちのことくらいなら知っている。というか、レモンのに昔直接聞いた。私達人間に化けた鶴のように、人間に扮して生きるのだと……妖精もそういったことができるらしい。
「そう、愛華さんね。彼女は面倒見が良さそうだから……次に店に来たときにでも聞いてみることにするわ」
というより、レモンのを居候させているということは愛華さんは能力持ちなのだろうか?まさか、愛華さんが能力持ちであるとは盲点だった。こんなに近くに能力持ちが居て気が付かないだなんて。
文明が発達していない昔なら超能力者はすぐに見つかったものだけど、今は隠れやすいらしい。
イチゴのを再び帰らせ、私はミーティアの面倒を見に行く。
「ミーティア、朝よ、今度こそ朝! 寝坊よ馬鹿」
私はミーティアを叩き起こす。寝ぼけたミーティアを見るのは何気にレアである。
「うん……? あ、お姉様!朝ごはん作ってなくてごめんなさい!」
「今日は私が昨日の晩買ってきたのがあるから、それ食べたらいいわ」
「お姉様、本当に昨日からお優しいのですね、見違えたようです」
あんたが変わっちゃったからよ。私はその言葉を呑んで食卓にミーティアを連れていく。
食卓に並んだ料理を見て、ミーティアは目を輝かせる。
「イナゴの佃煮!」
「あんたこれ本当に好きよね、私は可もなく不可もなくだと思うんだけど」
「いっただっきまーす!」
ミーティアは米をおかずにイナゴの佃煮を食べ始める。……逆だと思うのだけど、まぁ美味しいならいいわ。
「じゃ、私は朝の占い行ってくるから」
「あれ、お姉様は食べないのですか?」
私はもう食べたのよ、そう言って部屋に引っ込む。
未来が変わったから、今日は今日の未来観測をしようかしらね。私は呪文を呟き、手で水晶をなぞる。すると、私にだけ見える未来が映る。
なるほど、愛華さんが今日も来ると。じゃあ占い屋も開けておきましょうかね。
それに、レモンのもしっかりいる。後は麦わら帽子の茶髪の女性……知らない子だわ。後でこの子のことも調べておきましょう。
ミーティアの観測をしたけど、機織りをしていない以外は別に変わった様子は見られない。
羽根が完全になくなっちゃったことは意識の外に置いておくよう暗示をかけておいたけれど……機織り(染め物)ができなくなっちゃってどうしようかしら。
ま、機織り(染め物)が出来なくなったミーティアの分まで、私は働かなくっちゃねぇ。ミーティアには悪いけど、今日から占い屋は朝から営業をすることにした。
コメート・ファウストの場合④
2023/02/16 up